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はじまりのエピタフ1

皆さん、ご機嫌いかがですか~? 最近の暑さときたら、おもわず、


『あーん? 暑すぎんじゃねーか。

……なるほど SUMMER じゃねーの(笑)』

とか、読んだこともないテニプリネタを言いたくなってしまうほどの暑さですねw

さて、文字に耽溺したいと言いながら、すっかり縛り武神に耽溺してしまっていた私。
以前から書きたいと思っていた話が何とかまとまって来たので、公開させていただきたいと思います。公式でない設定や名称などが多発しておりますが、そのあたりは平にご容赦をw

長いので追記の方に入れました。

タイトルは 【はじまりのエピタフ】です。

よろしければご笑納下さい。

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はじまりのエピタフ2



「……久しいな、ジャック」
 そう答えるヴァレリーの声を遮るかのように、バキンッという不快な音が轟いた。再びショウグンギザミの鎌が振るわれ、ヴァレリーの盾がそれを受け止めたのだ。
「怪我はないか?」
「は、はい。大丈夫ですニャ……」
 こくんこくん、とジャックは頷いた。

バキンッ、バキンッ、バキンッ――二人が言葉を交わす合間にも、凄まじい勢いでショウグンギザミの鎌が振るわれる。だがヴァレリーは微動だにせず、その攻撃のすべてを盾で受け止めた。
「すごいニャ……」
 ジャックは思わず感嘆のため息を漏らした。目の前にいるショウグンギザミはちょっとした小屋ほどの大きさがあり、振り下ろしてくる鎌はあたかも柱と見紛うほどである。だが、ヴァレリーはその攻撃の悉くを盾で受け止めた。

「逃げろ」
 短くヴァレリーが言った。
「こいつは俺が引き受ける。逃げろ」
 飛竜をも倒すヴァレリーならば、ショウグンギザミだって問題なく倒せるに違いない。自分がいたら却って邪魔になる――ジャックはそう思い、言われた通りに逃げようとした。
 
 だが、ある事に気が付いて足を止める。
「ヴァレリーさん……そういえばニャンで……」
 バキンッ、バキンッ、バキンッ。耳障りな音が響く。相変わらずヴァレリーは、鎌の猛威を微動だにせず受け切る。
「ニャンで盾なんかもってるニャ……?」
 
 ジャックの知っているヴァレリーは大剣の使い手だったはずだ。大剣使いは盾を持たない――そもそも両手でなければ扱えないので、盾を持つ余裕などないというのもあるが、大剣はその肉厚な刀身を使ってモンスターの攻撃を受け流すことが出来るので、そもそも盾は必要とされないのだ。

「大剣は……大剣はどうしたニャ?」
「……ない」
 ほんの一瞬だけ間をおいて、ヴァレリーは短く答えた。
「ほ、ほかの武器は……?」
 どう見ても武器を持っている様子はなかったが、一縷の望みを託してジャックは聞いてみた。もしかすると、ジャックの知らない新型の超小型ボウガンなどを持っているかも知れない。だが、そんな希望的観測は「ない」というヴァレリーの短い返事で露と消えた。
「そんニャ……」
 ジャックは呆然とした。いくら凄腕のハンターと言えども、武器なしでこんな巨大モンスターと渡り合えるはずがない。

「いいからお前は逃げろ」
 ショウグンギザミが右の鎌を大きく振りかぶり、目にも留まらぬ速さで振り下ろす。ヴァレリーは、瞬時に盾の角度を軽く上向きにした。
 次の刹那。
 パギィィンンッ、という、今までとは異なる音が響いた。そして間を置かず、ドスンという音と共に地面が揺れる。

「鎌がいかれたか」
 振り下ろした鎌がへし折れて、三分の一程の長さになっていた。折れた部分から、青黒い液体がだくだくと流れ出ている。そして、その痛みのせいなのか、ショウグンギザミが地面へくず折れるようにしてへたり込んでいた。
「さあ、今のうちだ」
 ちらり、と一瞬だけヴァレリーがジャックを見た。
「ヴァレリーさんはどうするニャ……ぶ、武器もニャいのに!」
 ジャックは必死に言い募った。

「俺一人なら、こいつの攻撃をいなしながら逃げることも、不可能じゃない」
「でも……」
「頼む……救わせてくれ」
 ヴァレリーの声に、ジャックはハッとした。救わせてくれ、とヴァレリーは言ったが、その声音はあたかも、
『俺を救ってくれ……』
 と、懇願しているように聞こえたからだ。

「今日こうしてお前を救うことになったのは、きっとミユサの導きだろう。あいつが、ジャックを救えと言っているに違いない。俺にはそう思える」
「ヴァレリーさん……」
 ギシッ、という音がする。ショウグンギザミの脚が微かに動き始めていた。
「早く行け……」
 ヴァレリーは次の攻撃に備えて盾を構え直した。

「わかったニャ。でも……」
 先刻の声音が忘れられない。自分を助けることがヴァレリーの望みならば、ジャックはそれに従うしかない――だが、逃げっぱなしでいるつもりはなかった。
「すぐに仲間を連れてもどってくるニャ。ヴァレリーさんをみすてるなんて、そんなことは絶対にしないニャ! だから、どうか無事でいてニャ!」
 そう言うと、ジャックはほんの一瞬だけ逡巡した後、まるで迷いを振り切るかのように前足を地面へ叩き付け、疾風のごとき速度で走り去った。





 ジャックが走り去ったのとほぼ同時に、ショウグンギザミが立ち上がった。ぶくぶくと口から大量の泡を噴いている。食事にありついた所を邪魔され、あまつさえ大事な鎌まで折られたショウグンギザミは、極度の興奮状態に陥っていた。彼らに感情というものがあるのなら、まず間違いなく「激怒」しているであろう。

「ここからだな……」
 そう呟き、ヴァレリーは盾を持つ手に力を込める。興奮状態のショウグンギザミの厄介さは、重々承知していた。移動速度や攻撃力が、通常時とは比較にならない程に増すのだ。
 ヒュッ、という風切り音の直後に、ガキンッ、という剣呑な音がして、とてつもなく重い衝撃がヴァレリーを襲う。踏ん張った両足が地面を半歩程滑る――先刻までの攻撃が、児戯とも思える程の重さだった。

「やはり持て余すか……」
 ヴァレリーは軽く舌打ちした。
 現在つけている防具には色々と手を入れてある。モンスターの中には火を吹いたり、氷の息を吐いたりするものもいる。そういった輩に対抗するため「珠」と呼ばれる装飾品で、熱や冷気に対する防具の耐性を上げてあるのは勿論のこと、物理攻撃な衝撃を上手く逃がすような仕組みにもしてある。
 加えて「精霊の加護」という、身体に迫る危機を鋭敏に察知出来るようになる「お守り」のような珠も付けてある。お守りとは言うものの、実際には五感を鋭敏にし、空気の流れの異常などから危機を事前に察知出来るという実用的なものである。

 だが、モンスター達の攻撃を完璧に防ぎ切ることなど出来る訳もない。相手は人間など及びもつかない程の生命力と破壊力を持ち、一切の手心を加えずにそれらをぶつけてくるのだ。

 ショウグンギザミが体を持ち上げ、両の鎌を大きく振りかぶる。
 威力の大きい攻撃がくると踏んだヴァレリーは、盾を正面に構えたまま半身の姿勢を取った。 
 次の瞬間、ショウグンギザミは体を沈ませたかと思うと、まるで抱きつくかのように両方の鎌を交差させながら振り下ろした。全体重を乗せた死の抱擁――かろうじてその攻撃を受けたが、衝撃を受け流し切れず、盾を構えた姿勢のままで六歩程もの距離を後ずさった。

「む……」
 盾の端が微細ではあるが削り取られていた。右の鎌が折れていなければ、こんなものでは済まなかったかも知れない――それ程の威力を持った攻撃だった。
 死の抱擁をしくじったショウグンギザミは、そのまま間髪入れずに溶岩洞の天井へ向かって跳躍する。天井に激突する直前に体を上下逆さまになるように捻ると、四本の脚で天井に取り付く。巨体に不釣合いな、実に軽やかな跳躍だった。

 だが、感心している暇などない。ヴァレリーはすぐさまその場から走り出す。あの巨体を上から落とされたら、ひとたまりもなく潰される。地面に対して平行な角度での攻撃ならば防具の性能や身のこなし方で衝撃の逃がしようもあるが、地面に対して垂直にくる攻撃ではそうはいかない。地面とショウグンギザミの巨体に挟まれ、襲ってくる衝撃を余すことなく全身で受けることになる。以前「グラビドXシリーズ」という、堅牢さに定評のある装備を着込んだハンターが、それこそ踏まれた生卵のようにあっさりと潰され、帰らぬ人となったのを見たことがある。

 走り始めたヴァレリーに合わせるかのように、ショウグンギザミも天井に張り付いたまま移動する。地面を進む時程の移動速度は出ないようだが、ヴァレリーの方は溶岩の川やガスの噴射を迂回しながら走らなくてはならず、更にこまめに天井へ視線を配らなくてはならないので、距離を開けることがままならない。

「くっ……!」
 ショウグンギザミが降ってくるのが視界の隅に映った。ヴァレリーは、頭から水へ飛び込むような姿勢で前方へ飛んだ。瞬き一回分程の間を置いて、盛大な地響きがする。起き上がりながら視線を向けると、ほんの一瞬前までヴァレリーがいた所にショウグンギザミが降り立っていた。

 左の鎌が地面に対して垂直に突き立てられている。ただ圧し掛かるだけでなく、鎌でヴァレリーを串刺しにしようという腹づもりだったらしい。あの巨体の自重が載った鎌を突き立てられたら、例えどんな防具を身につけていようと一発であの世行きだろう。
 
 ショウグンギザミが四本の脚をじたばたさせる。鎌があまりにも深く地面に刺さってしまったため、抜けないようだった。強走薬グレートの効果が残っているうちに距離を稼いでおくべく、ヴァレリーは再び走り出した。時折振り返り、ショウグンギザミの姿を確認することも怠らない。




 鎌が地面から抜けたのは、ショウグンギザミの姿が大分小さく見えるようになってからだった。だがヴァレリーは全力で走り続ける。両者の間にはかなりの距離が生じているが、それはあくまで人間の尺度で見た場合のみである。人間よりも遥かに大きい体を持っているモンスター達から見れば大した距離ではない。加えて、モンスター達は人間にはない移動手段を持っていたりもするので厄介だ。
 
 例えばリオレウスなどは、その翼を使って一気にハンターとの距離をゼロにするし、グラビモスなどはそもそものサイズが違いすぎるので、普通に走るだけで容易に距離を詰めてしまう。そして、今、ヴァレリーの遥か後方にいるショウグンギザミは――左の鎌を斜め上へ掲げて体を横向きにすると、狂ったように四本の脚を動かして迫ってきた。四本の脚による超高速移動。それが、ショウグンギザミの持つ人間にはない移動方法だった。
 
 キシキシキシキシキシキシキシキシキシキシキシ。

聞く者すべてを不快にさせるような音。見る者すべてに眩暈を感じさせるような、精密且つ異常な速さでの動きを繰り返す甲殻に包まれた脚――ヴァレリーが全速力で稼いだ距離は、あっという間に詰められてしまった。

「ちっ……」
 軽い舌打ちと共にヴァレリーは盾を構え、ショウグンギザミへと向き直った。
 追いつくや否や、ショウグンギザミは鎌を薙ぎ払う。無造作に見える一撃だったが、先刻受けた一撃同様、とてつもなく重い。加えて折れてしまった方の鎌もお構いなしで振り回してくる。こちらは威力としては大したことはないが、鎌を振り回す度、折れた箇所から流れ出る生臭い体液が盾や体に飛び散るのが厄介であった。

 厄介と言えば、もう一つの厄介事がヴァレリーを襲ってきた。突如、全身から汗が噴出してきたのだ。走ったことの影響も無論あるが、どうやら冷却効果が切れてしまったらしい。みるみる内に体が重くなってくる。一刻も早く氷結晶イチゴを口にしなくてはならないが、ショウグンギザミの攻撃を防御しながらそれを行うのは、あまりにも危険な綱渡りである。

 だが、そんなヴァレリーの事情などはお構いなしに、ショウグンギザミは再び鎌を振るった。これまで鎌による攻撃を悉く防いできてヴァレリーであったが、襲ってくる酷暑と蓄積された腕の疲労によって、とうとう盾を叩き落とされてしまった。派手な音を立てながら五歩程離れた所へ盾が転がる。

 そしてショウグンギザミは――散々邪魔をしてきた相手にとどめをさせるという喜びと、今度こそ食事にありつけるという期待がそうさせるのだろうか。先刻ジャックを追い詰めた時と同じように、両方の鎌を高々と掲げ、キシャキシャと耳障りな音を立てながら体を上下左右にくねらせた。

 ヴァレリーはショウグンギザミを凝視する。盾がない今、攻撃を受け止めることは出来ないのでかわすしかない――折れた方の鎌が薙ぎ払われる。ヴァレリーはタイミングを見計らって左側へと転がる。何とか直撃は避けたが、鎌の傷口から流れ出る体液が顔の右半分に降りかかり、反射的に右目を閉じてしまう。
「くっ……!」
 一気に視界が狭くなる。
 その時、首筋に刺すような痛みを覚えた。「精霊の加護」によって鋭敏になった五感が、危険の迫っている部位に対して警告を出してきたのだ。とっさに腕につけたグラビドXアームで頭部をかばう。直後、がつん、という鈍い音と強烈にも程があると言いたくなるような横殴りの衝撃が襲ってきて、ヴァレリーは吹っ飛ばされた。

 ショウグンギザミの左鎌による薙ぎ払いだった。「精霊の加護」による「知らせ」を受けて頭部をかばっていなければ、首が胴に永久の別れを告げていたであろう。
「まだ首が繋がっているだけ儲けものだな……」
 自嘲気味に薄く笑いながら、ヴァレリーは何とか立ち上がった。だが、頭を揺らされたせいか、思うようには体が動かない。次にくる攻撃を避ける事は、出来そうになかった。

 ショウグンギザミが左の鎌を大きく振り上げる。
 ヴァレリーは大きく息を吸い込む。目を閉じることは決してしない――覚悟をしたその刹那、不意にショウグンギザミの足元で爆発が起こった。爆発は一回に留まらず、矢継ぎ早に何度も起きた。たまらずショウグンギザミは体勢を崩して、尻餅をつくようにへたり込む。
 
 何が起こったのか把握出来ないままヴァレリーが周囲に目を向けると、いつの間にか七、八匹程のアイルーがショウグンギザミを半円状に取り囲んでいた。皆、小タル爆弾を手にしている。
「ヴァレリーさん、無事ニャ!?」
 ジャックが駆け寄ってきた。
「仲間を連れてきたニャ!」

 再び幾つもの爆発音がした。へたり込んでいるショウグンギザミに対して、アイルー達が小タル爆弾を放ったのだ。やっとのことで起き上がれそうだったショウグンギザミが、また腰が抜けてしまったようにへたり込む。
小タル爆弾にしては威力が強すぎる――ヴァレリーは首を捻った。小タル爆弾を七、八個集めてもせいぜい大タル爆弾G一個分程度のダメージにしかならない。いくらなんでも、ショウグンギザミがその程度のダメージでへたり込んだりはしないはずだ。

「雷光虫をたくさん混ぜてあるのニャ」
 ヴァレリーの表情から疑問を察したのであろう、ジャックが説明をする。丁度その時、再度小タル爆弾が投げつけられた。投げつけられた爆弾はショウグンギザミの頭付近で爆ぜ、同時に稲光のようなものを出す。
 道理でギザミがやたらとへたり込む訳だ――ヴァレリーは納得した。雷光虫は爆雷針という罠に使用される虫で、衝撃を加えると放電するという風変わりな性質を持っている。一匹の放電量は大したことはないが、それなりの数を集めれば結構な電気量になる。但し、扱いが難しいので火薬との併用は例がなかったはずであるが――。

 キシャシャシャシャァァァァーーー!!

ショウグンギザミが苦鳴――甲殻種が鳴くのかどうかは定かではないが――を上げて、ぐったりとする。かろうじて触覚だけがピクピクと動いている。どうやら、今しがた頭付近で爆発した雷光虫入り小タル爆弾が、脳髄を存分にいたぶったらしい。

「……気絶したか」
「そうみたいニャ。とにかくすぐにここを離れるニャ。またいつ目を覚ますか分かったもんじゃないのニャ」
「そうだな」
 ヴァレリーは叩き落とされた盾を拾い上げる。

「みんなありがとニャ! 撤収ニャ!」
 ジャックが他のアイルー達に声をかける。そして、皆一斉に『ニャー!』と返事をしたかと思うと、腰の辺りにつけている「秘密のポーチ」から白い球体を取り出して足元に叩きつけた。叩きつけられて爆ぜた球体から、白い煙がもうもうと立ち込める。けむり玉――煙幕を張り、敵から発見されにくくするための道具だ。ショウグンギザミは気絶しているが、念の為ということなのだろう。

「ヴァレリーさん、ボクたちもいくニャ。とりあえず、今ボクが住んでるアイルー村に案内するニャ」
 そう言って、ジャックもポーチからけむり玉を取り出して地面へ叩きつけた。そしてそのまま走り出す。
「すまない。厄介をかける」
 ジャックの後に続いて、ヴァレリーも走りだした。

【続く】

はじまりのエピタフ3

ショウグンギザミから首尾よく逃げおおせたヴァレリーとジャックは、溶岩洞内のとある壁の前に立っていた。

「ここが入り口ニャ」
 ジャックはそう言うが、そこにはただ溶岩洞の壁がそびえたつだけである。
 ヴァレリーが疑問に思っていると、ジャックが壁に手を当てて何かを掴むような仕草をした。そして、そのまま手を横へ動かす。すると、あたかも紙をはがすかのように「壁」がめくれて横穴が姿を見せた。

「それはオオナズチの皮か?」
 ヴァレリーはそう尋ねた。霞龍と呼ばれる古龍オオナズチの表皮には、周囲の景色を真似るという奇妙な性質がある。上手く加工をしてやると、その性質は本体から剥がされても残り続ける。

「そうだニャ。他にいくつも秘密の入り口があるニャ。あ、それはしゃべっちゃいけないんだったニャ」
 ジャックが頭を抱え、ヴァレリーに向かって手を合わせる。
「ヴァレリーさん、お願いだから今の話しは忘れて欲しいニャ。しゃべったことがバレると、ボクは姐さんにドギツイお仕置きをされてしまうニャ」
「姐さん……?」
「ボクの村のリーダーだニャ。めちゃくちゃ頭がいいけど、なんだかとってもあやしいところがあるアイルーなんだニャ。オオナズチの皮も、さっきギザミに使った爆弾も、姐さんが交易でどっかから仕入れてきたニャ」
 
 雷の属性を付与された爆弾というものに、ヴァレリーは初めてお目にかかった。この大陸にあるギルドの武具廠(ぶぐしょう)でも、各種属性効果を付与した爆弾の開発は進められていると言うが、実用に至ったという話しは聞いたことがない。
 そうなると、「姐さん」は他所の大陸から雷属性のついた爆弾を仕入れてきたことになる。普通、武具またはそれに類する交易品に関してはギルドが一枚噛んでくるので、おいそれと仕入れられるものではないのだが――「姐さん」なるアイルーはどうやら普通でないようだ。

 普通でないと言えば、横穴を隠すのにオオナズチの皮を使用している点も普通ではない。

 古龍オオナズチは、隠行(ステルス)と呼ばれる特殊な能力を持っている。その表皮には、周囲の風景に対する強力な適応――高度な保護色を作り出す性質があり、まるで消えたようにすら見えるのだ。また、腐食液や毒液なども吐き出してハンター達を苦しめる強敵で、そう易々と倒すことは出来ない。そもそも出現数が少ない――あるいは隠行のせいで出現してても見つからないだけなのかも知れないが――ので素材を入手するのが困難なのである。ハンターでも入手に難儀する貴重な素材を所有している点だけを見ても、「姐さん」なるアイルーが只者ではないことが伺える。
 
「さあいくニャ」
 そう言いながら、ジャックはオオナズチの皮をくぐって横穴へ入った。ヴァレリーもジャックに続く。横穴の中には外からの光は一切入ってこないため、それを補うため壁に一定間隔で小さな光源が設けられていた。しかしながらその光は頼りないことこの上もない。
 ヴァレリーはその光源の正体を探ろうと目を凝らす――あえかに光る麦粒程の水晶が埋まっているのが見て取れた。この光源もおそらく「姐さん」が設置したものなのであろう。アイルー達は夜目が利くので、この程度の光源でも役に立つのだろうが、人間であるヴァレリーにとっては暗闇に等しかった。
 
 このままでは歩くことも覚束ないので、ヴァレリーはカンテラを取り出そうとしたが、採掘を行ってた場所にバックパックを置いてきてしまったことを思い出す。
「ヴァレリーさん、どうしたニャ?」
 ジャックが声を掛けてくる。

「明かりを出そうと思ったのだが、荷物を置いてきてしまった」
「それならあとでショウグンギザミがいなくなってから、仲間に頼んでとってきてもらうニャ」
「すまない。それと、こう真っ暗では上手く進めん」
「あ、気が付かないでゴメンなさいニャ。じゃ、こうするニャ」
 ジャックのそう言う声がしたかと思うと、ヴァレリーの左手にひんやりとしたものが触れる。ジャックの肉球の感触――ヴァレリーの胸に懐かしさがこみ上げてくる。

「すごく久しぶりニャ。今でもヴァレリーさんの手は、やっぱりゴツゴツしてるのニャ~」
 ジャックがしみじみと言った。
「……昔を思い出すニャ」
「そうだな……」
 ――ジャックを間に挟んでミユサが左手を握り、ヴァレリーは右手を握って持ち上げる。ふざけて二人でジャックをそのまま勢い良く宙に放り投げる。いきなりなにをするニャ~とジャックが喚きつつも、華麗に空中で回転して着地を決める。それを見て二人で拍手をする――穏やかで平坦な、しかし何物にも代えがたい時間がかつてあった。

「ニャハ……ニャハハハ」
 突然、ジャックが奇妙な声を出した。
「どうした?」
「て、手がくすぐったいニャッ……!」
 思い出に浸りながら、ヴァレリーの指先はいつの間にか肉球を弄んでいたらしい。
「すまん」
 ヴァレリーは苦笑する。

「くすぐったいけど、イヤじゃないニャ」
 ジャックはそう言うが、その口調はどことなく寂しげだった。ミユサはよくジャックの肉球をつついて喜んでいた。それを思い出したのだろう。
「さ、いくニャ」
 暗闇の中、手を引かれる。引かれるままに、ヴァレリーは歩を進めた。








 左右にくねる横穴をしばらく進むと、出口が近いのか周囲が薄っすらと明るくなってきた。そのまま歩き続けると、程なくして広場のような場所に出た。しかし、ヴァレリーは広場に足を一歩踏み入れた途端、目を閉じてしまう。暗い中を進んできたので、すぐには目が慣れないのだ。
「ついたニャ~。ここがボクの村ニャ♪」
 ジャックの声が弾む。

 やっと目が慣れてきたので、ヴァレリーは視線を巡らせた。あちらこちらにアイルー達の家が建てられているのが見える。木材と大振りな植物の葉、そしてモンスターの皮などを利用して作られた質素な作りの家が、二十軒程軒を並べていた。敷地の中央には丸太で櫓が組まれており、そこを取り囲むようにして小さな屋根のついた竃が幾つも据え置かれている。今は閑散としているが、食事時ともなれば炊事をするアイルー達でごった返すのだろう。

 しかし、ここは溶岩洞の中であるはず――不思議に思ったヴァレリーが目を細めながら天を仰ぐと、岩の天井ではなく火山地帯特有の鈍色の空が見えた。村をぐるりと囲む壁は溶岩洞の岩のままであるが、地面は踏み心地の良い目の細かな砂地になっている。どうやらこの場所は、溶岩洞内に出来た巨大な縦穴らしい。

 少し離れた所で、アイルーの子供達が小さなガミザミを小突き回して遊んでいる。また別の場所では、酒盛りをするアイルー達が見える。ジャックがさっきはありがとニャー、と声をかけているところから察するに、ヴァレリーを助けたアイルー達なのだろう。

 そんなアイルー達の様子を眺めていると、前方から黒いケープを羽織ったアイルーが歩み寄ってきた。
「姐さん。今戻ったニャ」
 ジャックがこちらへやってくるアイルーに声を掛ける。姐さんと呼ばれたアイルーが歩みを止めて軽く頷き、ヴァレリーへと向き直る。艶々とした真っ白な毛並み。青い瞳には高い知性を感じさせる光を宿しており、明らかにその辺りにいるアイルーと醸し出す雰囲気が違っていた。
 
「……私はアニー・ボマー。この村を取りまとめている。この度は、同胞のジャックを助けていただいて感謝する」
 凛とした澄んだ声音。綺麗な発音。しかもアイルー訛りがまるでない。目を閉じれば、人間の女性と話していると勘違いしてしまいそうだ。
「いや。最終的には俺の方が助けられた――ヴァレリー・マグノリアスだ。こちらこそ礼を言う」
 
 アニーはヴァレリーの持つ規格外の盾をじっと見つめた後、ゆっくりと目を閉じた。眉間に軽く皺を寄せ、時折顎を軽く上げたり下げたりする。何やら記憶を手繰っているようだった。
「そういえば……少々変わり者のハンターがいると聞いたことがある。何故かそのハンターは、武器を持たずに巨大な盾だけをもっているとか」
「……」
「基本的には採掘・採取専門だが、他のハンターの「盾役」として狩猟クエストに赴くこともあるらしい」
 ほんの束の間、アニーとヴァレリーの間に沈黙が流れる。

「ひょっとして、其処許は『鉄壁のヴァレリー』と呼ばれている御仁と同一人物か?」
「……何やらそう呼ばれているらしいのは確かだが、鉄壁などとは買い被りにも程がある。その証拠に、つい先刻もショウグンギザミに殺されかけた。それと――」
 アニーの言葉に、ヴァレリーは自嘲を通り越し自虐的とも取れる笑みを浮かべた。
「――武器は持たないのではなく、ただ単に持てなくなっただけだ」
「ヴァレリーさん……?」
 訳が分からない、という顔をジャックがする――無理もない。ヴァレリーは、武器を持てなくなったことも、「あの時」本当は何があったのかもジャックには話していない。話さないまま、ミユサを失って深く悲しんでいたジャックを一方的に解雇した――。

「どうやらいらぬことを言ってしまったらしい」
 アニーが少しだけバツの悪そう声で言う。
「同胞を救ってくれた恩人に対して失礼をした。許してほしい……さあ、ジャック」
「は、はいニャ」
「ヴァレリー殿を客殿へ。丁重に持て成せ」
「わかったニャ」
 こくん、とジャックが頷いた。

「アイルーしかいない所だが、ゆっくりしていくといい」
 ヴァレリーの顔を見ながら、アニーが言う。
「お言葉に甘えて、そうさせてもらおう」
「うむ……。では、また」
 アニーはそう言って背を向けた。


 案内された客殿は溶岩洞の壁の近くに建てられていた。アイルー達の住居と比較してかなり大きな作りで、明らかに人間に合わせた広さになっている。ジャックが、入り口掛けられた紗のような布をくぐって中へ入る。ヴァレリーも後に続いた。
 部屋の中央には切り株で作られたテーブルと椅子が置かれており、壁にはアイルー族のシンボルである「肉球のスタンプ」をモチーフにしたタペストリーが掛けられている。豪奢などという言葉とは縁遠いが、居るだけで心が和むような雰囲気のする部屋だった。

「ここは居間ニャ。右隣が寝室ニャ。そして、離れにはニャンと温泉まであるのニャ」
「温泉か。それはいい」
「火山に近いからお湯がいっぱい出るニャ。もっとも、ボクらはほとんど入らないけどニャ。ヴァレリーさん、カニ汁まみれだから温泉に入って綺麗にするといいニャ。防具とインナーもきれいにしとくニャ」
「すまない」
「その間にボクは食事の支度をするニャ。前よりずっと料理の腕もあがったニャ。ぜひヴァレリーさんに食べてもらいたいニャ~」
 嬉しそうにジャックは言って、食事の支度をするために部屋を出ていった。






 湯につかると、ふう、という小さな溜め息がヴァレリーの口から自然に漏れ出た。何やら草の束のようなものが浮いていたので、ヴァレリーはそれを手にとってみた。どうやら香草のブーケらしい。湯気に混じって立ち昇るやわらかい香りが、疲労した肉体に心地好かった。
 
 温泉のある離れは客殿の裏手にあった。アイルーの村に人間用の客殿――それも温泉など付いている――があるというのも変わっているが、もしかするとアニーが交易相手を接待するのに使っているのかも知れない。
 体が十分に温まったのでヴァレリーは湯から出た。脱衣所に用意されていた部屋着に袖を通し、同様に用意されていたサンダルを履いて居間に向かった。 
 
 居間に入ると、天井から吊り下げられたランタンに灯りがともされているのが見えた。客殿の入り口に掛けられた布をたくし上げて外を見てみると、大分暗くなっていた。ジャックは戻っていない。まだ、調理の最中なのだろう。
 ヴァレリーは隣の寝室に入ってみた。
 居間と寝室の間の壁には特に戸はなく、植物の蔓を編んで作られた目隠し用の衝立があるだけだった。
 寝室にはベッドが二つ置いてあった。二つのベッドの間にはナイトテーブルがあり、その上に置かれた小さなランタンの灯が寝室内をあえかに照らしている。
 
 ヴァレリーはベッドへ仰向けに寝転んでみた。適度に体が沈む感じが心地よい。湯に浸かったせいもあってか、どっと気だるさが襲ってくる。
 目蓋が異様に重くなる。
 訪れる眠りの誘惑に、抗えそうもなかった。


 ヴァレリー……。ヴァレリーってば……。


 意識が闇に溶けてゆく、その刹那。

 もう二度と聞くことは叶わないはずの声を、ヴァレリーは遠くに聞いたような気がした。
 



【続く】
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